MOS FETリレー(無接点リレー)の基礎知識:技術編
入力側電源設計時の電流値の考え方
入力側電源設計時のお悩み
メカニカルリレー、MOS FETリレーは、それぞれ異なる長所を持っています。
MOS FETリレーのメリットである小型や長寿命、静音動作などのニーズにより、現在ご使用いただいているメカニカルリレーからMOS FETリレーに切り替えたいといったケースもあるのではないでしょうか。
しかし、メカニカルリレーとMOS FETリレーでは製品構造自体が全く異なっているため、設計時に気を付けるべきポイントも当然ながら異なっています。
メカニカルリレーはコイルに電圧を印加することで駆動しますが、MOS FETリレーは電流駆動です。メカニカルリレーとは異なり、電流投入時に入力側のLEDが発光し、出力側のPDA(フォトダイオードアレイ)が受光量に応じて発電しMOS FETへ電圧を印可することで駆動させる構造です。そのため、MOS FETを駆動させるためにどれだけの電流をLEDに流してあげるか、が設計上解くべき課題となります。
LEDの光量は、さまざまな要因で変化します。電流値が大きくなれば、光量も強くなります。また長年使用していると劣化により光が少しずつ弱くなっていきます。そのため、長くご使用いただくためには、経年劣化時の発光量も考慮しなければなりません。さらに、温度が高い環境下であればMOS FETを駆動させるために必要な電圧が高くなるため、平常の温度よりも大きな電流を必要とします。
MOS FETリレーは定格以上の電流を流すことはできません。これらの要素を正しく設計に組み込まなければ、機器の故障につながります。
この入力側の電源設計において、おそらく頭を悩まされた方も多いのではないでしょうか。
なぜなら、LEDを使用しているために設計上考慮すべき事項がメカニカルリレーの時とは異なるためです。
ポイントは2つあります。
- 周囲温度環境の影響
- LEDの経年劣化
今回は、一番お客様からご相談の多いMOS FETリレーにおける入力側の電源設計時の電流値の考え方を紹介します。
MOS FETリレーのトラブル対策に関しては、The 解決をご活用ください。
MOS FETリレーについてのおさらい
まずは、MOS FETリレーの構造と動作原理をおさらいしておきましょう。
MOS FETリレーは半導体素子(LED, PDA, MOS FET)を組み合わせてリレー機能を実現したデバイスになります。
前述の通り、MOS FETリレーは、入力側に電流を流すことでLEDを発光させ、その光をPDAで電圧に変化して出力素子であるMOS FETを駆動させて動作します。つまり、LEDに適切な電流を投入し、PDAが受光しつづけられるよう入力側の電源を設計する必要があります。ポイントは以下の2点になります。
※当社のデータシートに、推奨条件としまして入力側のLED順電流の推奨条件が記載されています。こちらは参考として取扱いください。
画像をスライドしていくと動作原理がわかります。
ポイント① LEDの経年劣化 *
*入力側電流値の計算式のα1に該当
LEDは少しずつですが、経年劣化していきます。入力側の電流が高くなればなるほど、劣化速度が速くなりますのでそれを踏まえた上で入力側の電流値を設計いただく必要があります。また、MOS FETリレーの商品によって、搭載しているLEDの種類が異なり、同時に経年劣化の速度も異なります。
当社はLEDの情報を公開しておりますので、そちらをベースにお客様の設計に反映ください。
オムロンの各種LED推定寿命についてはこちら
「定格電流以下の範囲で高い電流を選択すれば動作上問題ないからよいだろう」と高い電流値を元に設計される方もいらっしゃるかもしれませんが、その場合はデメリットが生じます。入力側の電流がほぼそのままLEDに流れることで、LEDが劣化して発光量の低下を招きます。その結果、正常にMOS FETリレーが動作しないというケースが生じます。最悪の場合はLEDが壊れる事でMOS FETリレーが動作しなくなることもあります。そのため、正常に動作させること、かつ、長期的にご使用いただくためには、適切な光量でLEDを光らせるために、入力側に適切な電流が流れるように設計いただく必要があります。
※当社のデータシートに、推奨条件としまして入力側のLED順電流の推奨条件が記載されています。こちらは参考として取扱いください。
ポイント② 使用環境温度の考慮 *
*入力側電流値の計算式のα2に該当
お使いいただく使用温度条件によってもLEDの劣化速度が加速されます。使用温度が高くなればなるほど、劣化速度が速くなりますので、この点も踏まえて入力側の電流値を設計いただく必要があります。
※使用環境温度条件に関しては各製品ページのデータシートを参照ください。
ポイント③ その他の考慮事項 *
*入力側電流値の計算式のα3に該当
もう1つ、我々のデバイスに限ったお話ではないですが、お客様の品質に対する考え方によって安全を考慮した設計をされると思います。その点についても、入力側の電流値の設計に反映いただければと思います。
入力側電流値の計算式
3つの点を考慮すると、入力側の電流値の設計には以下のようにして求めることが可能です。
- 動作LED順電流設計値=IFT×α1×α2(×α3)
- IFT:トリガLED 順電流・・・カタログの最大規格値を基準。
- α1:LEDの経年変化率・・・製品形式(使用しているLED)により変わります。
共通の注意事項 の「●推定寿命について」をご参照ください。 - α2:IFTの周囲温度変化・・・カタログの「トリガLED順電流-周囲温度」グラフより。
- α3:安全係数・・・電源のばらつきや劣化、その他。
例えば、形G3VM-61G3, 周囲温度 最大85℃で使用する場合を想定すると
- IFT:0.2mA(最大規格値、at25℃)
- α1:LED推定経年変化データより10万時間後95%(5%減)で設定⇒ 1÷0.95=1.05
(周囲温度が高くなると変化が促進するため、周囲温度85℃での使用では40℃でのデータよりも変化率が大きくなりますが、IF条件10mAよりも低い条件で使用すると変化は小さくなります。今回はこの点を考慮して95%のまま設定。) - α2:トリガLED順電流-周囲温度のグラフの周囲温度25℃と85℃の値より変化率を設定
⇒ 0.05mA÷0.02mA=2.5
動作LED順電流設計値=0.2mA×1.05×2.5(×α3)=約0.53mA(×α3)となります。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
LED入力電源の設計をする際に、是非①周囲温度の影響、②LED経年劣化の影響を考慮の上で、 設計してみてください。
入力側電源設計に関するその他の注意事項に関しましては以下「共通の注意事項」にも記載しております。