目次
車のニーズから誕生した「省スペース」を叶える
新発想の極超小型スイッチとは?
形D2EWは、もともとは自動車のドアラッチ向けに開発されたスイッチです。
自動車のドアラッチ向けスイッチには、スイッチとしての高い信頼性はもちろんのこと、「小型化」が強く求められています。
車内での生活空間を広く確保するために、ドアを薄くしたい、沢山の機能を詰め込みたい、軽量化により燃費を良くしたいというのは自動車の本質的なニーズだからです。
それらを実現するために、スイッチやスイッチを動作させるための周辺機構自体にも、さらなる小型化が求められています。
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我々が今回新たに開発したのは、レバーなしでも多方向・多角度操作が可能な小型サイズのシールスイッチです。
スイッチの操作性の向上により、スイッチ周辺部品の小型化・省スペース設計・高密度実装にも貢献できる形D2EWには、長年スイッチの開発に取り組んできたオムロンだからこそ成し得た様々な工夫が詰まっています。
スイッチの操作性の向上は、それを搭載するお客様側の生産コスト削減にも貢献します。
レバーを必要としない形D2EWは、スイッチの操作機構を小型化・シンプル化することができるため、お客様側の使用材料・部品点数・生産工数・設計工数を削減することが可能です。
スイッチは、私たちの身の回りのどんな機器にも使用されています。自動車と同様のお困りごとは多くの機器で発生しています。省スペース化でお悩みであれば、まずは形D2EWを試してみませんか?


自動車から誕生した形D2EWは、耐環境性や防水性(IP67相当)に優れています。
高機能化(高密度実装)が進む一方でサイズ制限があり、かつ水回りや結露が発生しやすいアプリケーションにも形D2EWは活躍します。
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「限られたスペースの有効活用」を叶えるスイッチの理想形とは?
様々な機器で次々と新しい機能が搭載され、サイズは小さなものが求められる一方で、機器内の部品の数はどんどん増えてきています。お客様の「限られた製品空間を最大限に有効活用したい」というニーズに貢献するために、スイッチに求められることは何でしょうか?
機器のサイズを大きくすることなく、すき間空間を無駄なく使い、高密度実装を実現するためには、
- ①スイッチを押すための部品が小さい
- ②スイッチ自体の専有体積が小さい
の2点が重要になってきます。
しかし、この2つを同時に満たすことは想像以上に難しいのです。
<操作方法で発生するお悩み>

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①②を実現するための最も簡単な方法は、単純に真上から押す、つまりストローク(スイッチを押し切る距離)が最も短くなる角度から押すことです。しかし、ストロークがわずか数ミリの極小スイッチを垂直に押すという設計は、必ずしも簡単ではありません。
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ストロークが小さすぎると、勢いよく開け閉めをおこなうようなアプリでは、数ミリ押したら絶対に止まる設計が可能でない限り、スイッチが破損してしまう
押しボタンが下に下がりきるまでの距離がわずか数ミリしかないということは、それ以上押すとスイッチが壊れてしまうということです。確実に壊れないようにするためには、スイッチ操作部が押しボタンに接触して数ミリで絶対に止まる構造をお客様側で作らなければなりません。指で操作するようなマウスなどであれば可能でしょう。ですが、勢いよく開け閉めをするような自動車などのドアで、数ミリしか動かないようにするなんて、「どうやって設計すればいいの?」って思ってしまいますよね。
実は、ドアラッチのような大きな力が加えられるアプリの場合は、レバーなどの別部品を追加することで、ストロークを増やしたり、操作方向を変えたりしています。
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レバーのついたスイッチを使うと水平操作も可能となりますが、レバーを取り付けた分、スイッチ自体の専有面積は大きくなります。
さらに、レバーの操作距離はスイッチ自体の操作距離よりも大きいため、レバーを押し込むためのカムのサイズと移動スペースが大きくなり、カムを動かすためのギアや周辺部品も大きくなります。レバーの使用は、小型化のニーズに逆行して、スイッチだけではなく、機器自体のサイズを大きくしてしまいます。


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一方で、レバーを使わずに、無理に横からスイッチを押そうとした場合、当然ですがボタンが折れて壊れてしまいますよね。
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押しボタンは通常、真上から押下されるように設計されています。レバーなしで水平カムで操作するためには、カムのスイッチ操作部に角度をつけることが必要となりますが、その角度は、約30度が限界です(機種によります)。角度が大きくなるほど、押しボタン部に負担がかかり、スイッチとしての寿命は短くなってしまいます。
水平カムで操作する場合、ボタンを押し切った後でも、水平カムが押しボタン上を通過でき、過度な力がかかってスイッチが破損することはありません。しかし、水平カムに傾斜がある場合、ボタンを下まで押し切るには水平カムの移動スペースをより大きく確保しなければなりません。結果、お客様の機器のサイズを大きくしてしまいます。
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商品開発統括部
モビリティ開発部 商品開発G
米原 博人
お客様の機器の小型化のためには、
①スイッチを押すための部品が小さい
②スイッチ自体の専有面積が小さい
この両方を実現することが理想です。
しかしながら、これらを両立できるようにスイッチの構造を設計することは容易ではありません。
ゼロベースでスイッチのコンセプトを考えなおす必要があり、開発としては非常に高い壁でした。
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小さなすき間を有効活用しませんか?
どの角度からでも押せる極超小型スイッチの誕生
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この難攻不落の壁を打ち破ったのが、形D2EWです。
形D2EWは、オムロンが新たに考案したユニークな押しボタン形状により、レバーなしで、しかも水平カムに傾斜を設けることなく、水平方向からの操作に対応することが可能です。また、水平方向だけでなく、その他の角度からの操作にも対応できます。(下図参照)
どのようなアプリケーションでも、多機能・高密度実装は求められています。多角度操作が可能な形D2EWは、小さな空きスペースに簡単に組み込むことができる極超小型スイッチです。レバーをなくすことでスイッチ自体のコストパフォーマンスも向上しています。
多角度操作が可能な形D2EWで、アプリケーション内の小さなすき間を有効活用してみませんか?
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この難関をクリアするカギは
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レバーがなくても多角度操作に対応可能な形D2EWは、垂直方向から押した時のストロークと同様に、わずか数ミリで水平方向からの接点開閉が可能です。そのため、カムやギアなどの周辺部品も、スイッチを数ミリ分押せるだけのサイズで良いので、格段に小さくすることが可能になります
コストパフォーマンスを意識しながらも、お客様の設計自由度と機器の小型化に大きく貢献できることが形D2EWの最大の特長です。
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レバーあり
VS
レバーなし
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形D2GW
レバーを取り付けている分、水平カムは上側に設置しなければならず必要なスペースが大きくなります。
また、押しボタンを押し切るまでの水平カムのストローク距離も長くなります。
形D2EW
レバーなし、かつ最小限の水平カムの移動でボタンを押し切ることが可能なため、省スペース化に貢献できる
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レバーなし(丸型ボタン)
VS
レバーなし(おにぎり形ボタン)
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形D2GW
従来品は真横から押すには30度以下の傾斜が必要なため、押しボタンを完全に押し切るためには水平カムの移動距離が長くなる+サイズも大きくなる
形D2EW
レバーなし&最短距離で水平操作を実現
90°カムでも操作可能なため、カムの移動距離を圧倒的に短縮。レバーなしの同等サイズのスイッチと比較しても超省スペース

「省スペース化」実現のカギは「おにぎり」だった
お客様のニーズである「省スペース化」と「コストパフォーマンス」の両方を実現させた形D2EWをリリースするまでには、当然のことながら沢山の試練や苦労、葛藤がありました。
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商品開発統括部 モビリティ開発部 商品開発G
篠原 賢二
レバーを使用することなく水平操作で、スイッチを動作させようとすると、ボタンの形状は必然的に三角形状(おにぎり形)に限定されました。このおにぎり形という縛りがある中で、上からでも確実に押すことが可能で、かつ最小限のストロークの動きで開閉可能なボタン形状を実現するために、ボタン部斜面の最適な角度を算出していきました。
ボタンの傾斜が緩やかな場合
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横からボタンを押し切るまでに距離が必要。水平カムの移動スペースが必要となるため、ユニット(スイッチ+カム)のサイズが大きくなる。
ボタンの傾斜が急な場合
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横からボタンを押し切るまでの距離は短くなるが、ボタンの傾斜が急すぎるとボタンが横からの衝撃で破損してしまう。
D2EWの場合

緩やか過ぎず急すぎない、最小限のストローク距離を実現した三角形状。
また、ボタンを横から動作させる場合だけではなく、上方向から押しても確実な動作が行えるように、凸部分のカーブ形状の設計にもこだわりました。
凸部分がシャープな場合
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先端が尖っていると動作が不安定
D2EWの場合
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最適な形状にすることで安定した動作を実現
立ちはだかるおにぎり①:今までのシール工法はもう使えない
しかし、省スペースを実現するためのおにぎり形の押しボタン形状は設計できたものの、従来とは全く異なったオリジナルのボタン形状であるがゆえに、十分なシール性能(密閉性能)を確保することは非常に難しく、頭を悩ませることになりました。

従来の円形の押しボタン部では、樹脂のリブをボタン側に倒し、ゴムキャップに食い込ませことでゴムキャップを締め付ける「熱カシメ」という工程を採用していました。

しかし、形D2EWの押しボタン部は、円形の押しボタン部よりも体積比が約4.2倍大きく、それによりゴムキャップ自体もサイズが大きくなっています。そのため、樹脂の壁を作るためのスペースがありませんでした。形D2EWでは新たなシール方法の検討が必要でした。
そこで、ケースとゴムキャップのシールには、「スナップフィット」により、ゴムキャップをケースとカバーで十分な圧力を加えて挟み込むことで、IP67を満足できる、シール構造を採用しました。しかし、オシボタンとゴムキャップのシールにおいて、またしても立ちはだかるのは「おにぎり(楕円形状)」でした。
立ちはだかるおにぎり②:円 or 楕円?圧倒的に変わるシールの難易度
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商品開発統括部 モビリティ開発部 商品開発G
藤田 裕之
ボタン部が円形の場合、全方向から均等に加圧することで、シール性能を確保することができましたが、形D2EWのようにボタン部が楕円形状(均等でない形)の場合、どうしても締め付けの強い部分と弱い部分ができてしまいます。そこで、ボタンの軸部を可能な限り円形に近づける形状工夫を行いました。さらにボタン胴体軸部のデザイン調整だけでなく、ゴムキャップ側の形状やゴムの厚さをも調節することで、荷重のバラツキを補うデザイン設計も必要となりました。結果、IP67を満たす防水性能を確立するために、数か月にわたり、何度も設計と解析を繰り返し、最適な形状を導き出すため、試行錯誤を行いました。
形D2EW 楕円形の押しボタン
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楕円形のため、均等な力で締め付けるには工夫が必要
従来の円形の押しボタン
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円形のため、均等な力で締め付けることが容易
立ちはだかるおにぎり③:頭でっかちなおにぎりが組み立てを阻む
新しく開発した「おにぎり」形状の押しボタン部は、組み立てでも我々を悩ませました。
従来よりも体積比約4.2倍もの大きな押しボタンは、従来の方法では組み立てることができず、新しい部品形状の工夫がケース筐体部にも必要不可欠でした。
形D2EW 楕円形の押しボタン
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おにぎり形状の押しボタンが大きくて従来のように下から入れることが出来ない。
従来の円形の押しボタン
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シュウドウシの部分が大きいため、筐体(上)に下から押しボタンユニットを挿入
新発想の筐体、通称「バスタブ」
そこで、筐体を「バスタブ形状」にして、部品は上から積み重ねて入れていく工法を取り入れました。
しかし、このバスタブ形状を、金属と樹脂が一体となったインサート成形で実現するためには、スライド構造を持った複雑な金型にする必要があり、さらに、接点部となるリードフレーム(金属薄板)をそのバスタブ形状内部で精度良く位置決めする必要があります。
その上で、部品を積み上げるだけのシンプルな構造で「どうやってスイッチの開閉を行えばよいのか・・・」「従来の構造が取れないのに、どうやってシュウドウシと端子を繋げばよいのか・・・」、良い案が中々思い浮かばず、日々頭を悩ませ、何度も設計をやり直しました。しかし、それでもチーム全員の想いは同じでした。
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みんなの思い
一切妥協はしない。
「こんなスイッチが欲しかった」
とお客様に感じてもらえるスイッチを作りたい。
従来の枠に捉われない斬新な発想!構造の最適解はこれだ!
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シュウドウシを底面に配置し、接点面を2面から1面に集約。①押しボタンを押すと、②押しボタンによってシュウドウシが横に押され、接点に接触することで開閉できる仕組み。
「レバーなしでの多角度操作・小型化・組み立ての簡素化」、この3つの要素すべてを実現した構造の最適解は、従来の検出スイッチの開閉方法の枠に捉われない全く新しいものでした。形D2EWは、従来の押しボタンとシュウドウシが一体で動く構造ではなく、スイッチの底面にシュウドウシを配置し、押しボタンを押すことでシュウドウシが横にスライドする構造を取り入れています。さらに接点面も1面に集約することで、シンプルな工法で組立可能、かつ最小サイズの部品の組み合わせで接点開閉をおこなえる構造を実現したのです。
お客様に価値を認めてもらえることが開発者のやりがい
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商品開発統括部 モビリティ開発部 商品開発G
米原 博人
実は、 「レバー無しで多角度でもON/OFFができる小型のスイッチ」を作ろうという構想自体は5年も前から進めていました。
昨今の流れとして、例えば車のドアラッチでは、半ドアでもドアが自動で閉まってくれるなど、どんどん新しい機能が増えています。機能が増えれば増えるほど、制御に必要な部品も増えていきます。小型&スリムを維持するためには、ラッチのサイズは変えずにスイッチを隙間に詰め込むような高密度実装が求められます。当然、無理な角度でスイッチを押さなければならなくなるケースも起こります。
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「お客様はどんなスイッチが使いやすいのか」、「どんなスイッチがお客様の製品の価値をさらに高めることにつながるのか」、アイデアを作っては顧客と議論し、コンセプトを見直すことを何度も何度も繰り返しました。お客様のお困りごとや課題を解決できるスイッチの理想形を、長年追い求めてきましたが、中々実現することが出来ませんでした。なぜなら、我々開発者がイメージする構想設計は、商品設計の難易度はもちろんのこと、工程設計と金型設計の難易度が格段に高かったからです。
今回、工程設計と金型設計のメンバーが妥協なく努力と工夫を重ねてくれたおかげで、その高いハードルを乗り越えることができました。その他にも多くの課題がありましたが、関連部門メンバーによるコンカレント開発によって解決することができました。我々が追い求めた形D2EWを生み出すことができたのは、この製品に関わるすべてのメンバーの力があったからだと思っています。
正直なところ、本当にこの商品がお客様に受け入れられるのか不安なところもありました。しかし、形D2EWのコンセプトは、我々の狙い通り、お客様から非常に好評いただいており、ほっとしています。今後、端子の形状違い、ポスト形状違い、リード線付きなどもバリエーション追加していく予定です。
さらに、現在断線故障なども検知できる抵抗内蔵スイッチ
形D2EW-Rも開発を進めています。
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我々が真に達成感を得られる瞬間は、製品を世に送り出せた時ではなく、お客様からご購入いただけたときです。自己満足ではなく、お客様に商品の価値を認めていただけたという証ですから。これからも、お客様に満足いただける、付加価値の高い商品を、従来の発想にとらわれない柔軟な設計で実現していきたいと思います。
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商品開発統括部 モビリティ開発部 商品開発G