蓄電システムにおける突入電流防止回路にはこのリレー

気候変動への懸念が高まり、温室効果ガスの削減が求められる中で、化石燃料に比べて二酸化炭素の排出量が少ないクリーンな発電方法として、太陽光発電による電力供給への関心が高まっています。しかし、再生可能エネルギーによる発電は、天候や季節によって左右されるため、安定した電力供給が難しいという課題を抱えています。蓄電池は発電した電力を貯めることができるため、発電が不安定な時や電力の需要が高い時でも、電力供給の安定化を図ることができます。蓄電システム(ESS:Energy Storage System)は直流電源なので、充電・放電回路には直流の回路が使用されています。高電圧化が進む蓄電システムでは、直流回路における安全制御がますます重要となっています。
これらのシステムにおいて、電源が投入された瞬間に発生する突入電流を抑制する突入電流防止回路(プリチャージ回路)と機器内に残った電気を素早く放電し、使用時の安全性を確保する放電回路は重要な役割を果たしています。

突入電流とは?

突入電流とは、機器に電源を投入した瞬間に流れる定常よりもはるかに大きな電流をいいます。インバータ回路などでは、コンデンサには電源投入時にまず電気が充電されるため、電源投入直後は非常に大きな電流が流れます。突入電流は、通常時の数十倍の電流になることもあり、回路内の部品や配線に大きな負荷をかけるため、部品の損傷や電気的なノイズ、電力ロスなどの問題を引き起こします。

突入電流:コンデンサ内の電気が空のため、電気を貯めようとして突発的に大きな電流が流れる。定格電流:コンデンサに電気がたまると定格電流に戻る。

なぜ突入電流防止回路は必要?

突入電流防止回路

メカニカルリレーは、電源開閉用途で広く使用されており、主に高電圧や大電流を安全に通電・開閉するために使用されています。過剰な電気的負荷によりリレーが破損すると、電気回路が正しく機能しなくなり、火災などを引き起こす可能性があります。破損までいたらなくとも、部品の異常発熱などにより電解コンデンサなど周囲の部品に悪影響を与える可能性もあります。
機器の高電圧化が進んでいる昨今、電気回路全体を安全に保つために、突入電流防止回路は電気回路設計においてますます重要な要素の1つとなっています。また、突入電流防止回路は、回路の動作を安定させるためにも重要な役割を担っています。突入電流が発生すると、回路の電源電圧が不安定になり、電子部品の性能が低下することがあります。突入電流防止回路は、このような不安定な状態を回避し、回路を安定して動作させるためにも役立ちます。

突入電流防止回路のしくみ

突入電流防止回路とは、電気的な負荷を制御するために使用されるリレーなどの電子部品が、電源投入時に、瞬間的に大きな電流が流れることによってダメージを受けることを防ぐために、突入電流が流れないようにする回路のことです。

●電源投下時(コンデンサに電気が充填されるまで)

突入電流防止回路のおかげで突入電流は発生しない

インバータ回路などのコンデンサに電気をためる必要がある回路では、電源をONにした直後に大電流(突入電流)が流れます。そこで、この電流による回路の損傷を防ぐために、突入電流防止抵抗(プリチャージ抵抗)の組み込まれた電流経路(バイパス回路)を別に設け、コンデンサに電気が溜まるまで電流が突入電流防止抵抗に流れるようにします。
この突入電流防止抵抗が大電流が流れるのを防ぐため、リレー自体に耐突入電流性能は必要ありません。
回路構成にもよりますが、一般的に10~20Aの電流を許容できるリレーが使用されています。

●コンデンサに電気が充填された後

コンデンサに電気が溜まったので、定格電流が流れる

コンデンサに電気が溜まり、電流が十分に小さくなったタイミングで電流の流れる経路をメイン回路に切り替えます。

放電回路とは?なぜ放電回路は必要なのか?

放電回路

インバータ回路などにおける放電回路とはコンデンサに蓄えられた電気を放電させる回路のことです。
電源をOFFしても、コンデンサ内に電気は溜まったままのため、そのままコネクタ部に触れてしまうと感電してしまいます。
蓄電システムでは、放電時間が1.0秒を超える場合、電圧が安全なレベルまで低下するのに要する時間を記載した警告ラベルの貼り付けが義務付けられています。(JIS C4412-1)
安全にご使用いただくためにも、回路内の電気を放電する回路の設計は必要不可欠です。

放電回路のしくみ

放電抵抗:熱エネルギーに変換して電気を消費する

放電回路は、放電抵抗に電気を流すことで、電気を熱エネルギーに変換して放電します。放電回路にも、突入電流防止回路と同様に抵抗が組み込まれているため、リレー自体に大電流が流れることはありません。

突入電流防止回路/放電回路に最適なオムロンのリレーは?

放電回路 / 突入電流防止回路

上記でも述べた通り、突入電流防止回路には抵抗が組み込まれており、突入電流自体が流れるのを防ぐため、リレー自体に耐突入電流性能などは必要ありません。
例えば、CHAdeMO協議会で統一している90kWまでの直流を用いる急速充電方法では、車両コンタクタが投入された時に、充電コネクタの電源線に流れる電流は20A以下にすることが定められています。

これらの条件から、上図のリレー①③に適したオムロンのリレーラインアップは以下となります。安全が求められる重要度の高い回路に、品質にこだわり抜いたオムロンの高容量リレーはいかがでしょうか。

オムロンの突入電流防止回路/放電回路に最適な高容量リレーラインアップ

オムロンは幅広いラインアップでお客様のアプリケーションに最適なリレーを提供します。

高容量リレーラインアップ

計算式で簡単算出!アプリケーションに最適なリレーを選ぶ

どのくらいの電流と電圧に耐えられるリレーを使えばよいかは、電源投入後にお客様がどれだけ早くコンデンサのプリチャージ(充電)を完了させたいか、つまりどれだけ早く機器を動作できる状態にしたいかに依存します。早くプリチャージをするためには大きな電流に耐えることができるリレーが必要になります。
プリチャージを特定の時間で完了させたい場合のリレーに求められる電流値は、下記の計算を用いて簡単に算出可能です。

下図のようなRC直列回路(抵抗とコンデンサを直列に接続した回路)を例にとって説明します。
リレーをONにする前は、コンデンサに蓄えられている電気の量Q[C]はゼロとします。

RC直列回路

前述したように、電源をONにすると、コンデンサに電気が充電されるまでの過渡現象(定常ではない状態になること)として大電流が発生します。時間経過とともに、回路に流れる電流は小さくなっていき、一定値に落ち着きます。

電流I[t]は、

式1
で計算することができます。

t=0のときIはE/R。Q[C]コンデンサに貯まっている電気の量。コンデンサに電気が貯まるとIは限りなくゼロに近い状態になる。

抵抗が直列に接続された回路では、電圧はコンデンサと抵抗の電圧に分圧されます。

E(電源電圧)=EC+ER
コンデンサの電圧 ECは、

式2
で計算することができます。

コンデンサの電圧は0から始まり、コンデンサ内に電気が貯まり、プリチャージが終わると、電圧は電源電圧Eとなります。
逆に、抵抗の電圧は、電源電圧Eから始まり、コンデンサが充電完了されると電流が流れなくなり、抵抗の電圧は0になります。

コンデンサに電気が貯まるとコンデンサの電圧はE(電源電圧)になる。コンデンサの電圧は0からはじまる。

の数式により、プリチャージ(充電)にかかる時間と、コンデンサの電流・電圧の関係は以下のようになります。

<回路条件>
コンデンサの容量  C[uF]=5000uF
充電抵抗 R[Ω]=47Ω
電源電圧 E[V]=300V と設定した場合
コンデンサ電圧が電源電圧に近い値を充電完了の電圧値に設定する

コンデンサの電圧を電源電圧に出来るだけ近づけないと、大きな突入電流が発生してしまいます。上図の回路条件においては、電源電圧がE[V]=300Vであるため、コンデンサ電圧が300Vに近い値をプリチャージ完了の電圧値に設定する必要があります。

例えば、充電完了の電圧値を295Vに設定します。
1秒でEc[V] が295Vに到達するような抵抗( R[Ω]= 47Ω)を選ぶと、計算式①より、
最大電流 I[max]は6.4Aとなります。

つまり、1秒でプリチャージを終わらせて、抵抗の入っていないメイン回路への切り替えをおこないたい場合は10A通電可能なリレーを選定いただければよいということになります。
お客様の設計に合わせて、最適なリレーをご選定下さい。

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