目次
- コンタクタとリレーの違い
- DCパワーリレーとは
- コンパクトなリレーサイズでコンタクタ領域の大電流遮断を実現したDCパワーリレーとは
- 安定供給を目指したガスなし構造リレーサイズでコンタクタ領域の大電流DC500A遮断を実現
- 遮断容量が500Aクラスのコンタクタに比べて圧倒的にコンパクト
- 5000Aの大電流が流れても耐えきる高い短絡性能
- 車の大衝突レベルの激しい衝撃にも耐えられる、超耐振動衝撃性能
- [ 開発者インタビュー ] ガスの力に頼り切っていた、今までのノウハウだけでは実現できない500A遮断の壁
- [ 開発者インタビュー ] オムロンが生み出したDCパワーリレーの新構造
- [ 開発者インタビュー ] 理想の設計 vs 量産できる構造
- [ 開発者インタビュー ] 電子部品でも社会課題に挑戦できる
「脱炭素」など環境への配慮やエネルギー費の高騰により、全世界がいま、化石燃料から再生可能エネルギーへと加速度的にシフトしています。太陽光や風力発電などの再生可能エネルギーは、天候に依存するため非常に不安定な電力です。再生可能エネルギーを効果的に活用するためにはバッテリ(蓄電)が必要不可欠となります。家庭や建物への電力供給以外にも、ガソリンやディーゼル燃料を使用している乗り物などのモビリティ分野でも、再生可能エネルギーを利用したDC駆動(バッテリ駆動)の移動手段や輸送機器の発展が期待されています。「電気をたくさん貯めて、たくさん使いたい」という蓄電ニーズを実現するために、DCパワーリレーにはさらなる「高容量」が求められています。
また、多くの機能の組み込みが進む機器では、限られた空間での高密度化が求められており、スペース効率も非常に重要視されています。
コンタクタとリレーの違い
100Aを超えるような大電流通電が必要なアプリケーションでは、コンタクタ(接触器)が使用されます。
リレーとコンタクタはどちらも回路のさまざまな部分を開閉するために使われますが、主な違いはコンタクタは大電流、リレーは小さな電流で使用されます。しかし、大電流で使用されるコンタクタは、リレーよりも堅牢で大きく、また開閉時の動作音も大きくなりがちです。
コンタクタとリレー、両者のメリットを兼ね備えたリレーがオムロンのDCパワーリレーです。
DCパワーリレーとは
オムロンは、お客様のニーズに合わせた幅広い容量帯でのDCパワーリレーを取り揃えております。コンタクタとリレーのメリットを掛け合わせたDCパワーリレーでお客様の課題を解決します。
オムロンのパワーリレーラインアップ
コンパクトなリレーサイズでコンタクタ領域の
大電流遮断を実現したDCパワーリレーとは
G9EKで広がるアプリケーション
これらのアプリケーション回路の
高電圧・大電流遮断用途でG9EKは活躍します。
大電流DC500A遮断
そこで、従来はアークを素早く冷やす特性を持った水素ガスを閉じ込めた堅牢なリレー構造をとることで、コンパクトなサイズでの大電流遮断を実現してきました。しかし、小さなサイズでコンタクタ領域の大電流開閉が可能という大きなメリットを持つ反面、部品の内部にガスを閉じ込めるという特性上、製造には特殊な部材や工程が必要となります。特殊な部材を大量に、かつ安定して入手することは難しく、安定した供給や大量生産に対応できない、価格が高くなってしまうという課題を抱えていました。さらに、数十年以上ガス漏れやガス劣化しない堅牢なリレーが必要となるため、構造が複雑で高価なリレーになりがちでした。今後、需要が高くなるバッテリ(蓄電)分野において、ガスの力を借りることなくコンパクトなサイズ感で大電流の遮断ができるリレーが今、求められています。
アークとは
リレーが回路をオフにするとき、接点の間に発生する約数千℃にも及ぶ火花のことです。
従来のリレー構造
不活性ガスによるアーク冷却
接点部分に加圧した熱伝導率の高いガスが封入されています。ガスがアークの熱を奪うことで素早く冷却・遮断することができます。
セラミック筐体による封止構造
セラミックで覆われた長期的にガスの漏れない・劣化しにくい構造が必要となるため、見た目も堅牢でサイズも大きくなります。ガス漏れを防ぐための特殊な部品や生産工程、密閉性を担保するための特殊な検査なども必要となるため、高価になりがちです。
ケーブルを変えることで最大200Aまでの通電が可能
ケーブルを変えることで
最大200Aまでの通電が可能
最大200Aまでの通電が可能
G9EKはガスレスで定格負荷DC500V 120Aでの高容量開閉が可能です。100A以上の大電流を安定してシステムに通電するために、G9EKの端子は広面積な板形状(バー端子)を採用しています。接続するバスバー(コネクタケーブル)を太くすることで、放熱性が向上し、定格値120Aよりもさらに大きな電流を通電することが可能です。
30mm2の太さのバスバーをご使用いただくと、120Aの通電が可能ですが、100mm2の太さのバスバーをご使用いただくと、200Aまでの通電が可能となります。(実力値)
2個直列接続で500V以上の高電圧を遮断
G9EKを1個使用した場合
DC500Vの遮断が可能
G9EKを2個直列に使用した場合
リレーそれぞれにDC500Vずつ、計DC1000Vまでの遮断が可能
2個並列接続で1000Aの大電流を遮断
G9EKを2個並列に接続することで、リレー1個では遮断できない500A以上の大電流を遮断することが可能になります。
G9EKを1個使用した場合
DC500Aの遮断が可能
G9EKを2個並列に使用した場合
リレーそれぞれに500Aずつ、計1000Aの遮断が可能。短絡電流にも強くなります。
しかし、コンタクタはガス封止リレーのようなアークを遮断する特殊な構造を有していない気中開閉(ガスなし)タイプです。そのため、どうしてもサイズが大きくなってしまうという課題がありました。
G9EKは、コンパクトなサイズ感はそのままに、500Aの大電流開閉を実現しています。同容量帯のコンタクタと比較しても80%小さく、お客様のアプリケーションの小型化に貢献します。
充電・放電の双方向に対応で
機器のサイズダウンにも貢献
機器のサイズダウンにも貢献
極性あり(片側方向のみ対応)のリレーの場合
極性のないリレーの場合、充電/放電システムではリレーを2つ+ダイオードを2つ使って並列に接続する必要がある
極性なし(双方向開閉に対応)のリレーの場合
G9EKは1個で充電と放電の双方向開閉が可能
通電側に極性がある場合
極性あり(片方向)
端子に極性があるため、コネクタの方向が決まってしまい、
使用機器によっては、配線のためのスペースが必要となる。
極性なし(双方向開閉)
極性が無いため、使用機器に合わせて、コネクタの方向を決定できる。
※2024年11月当社調べ
高容量バッテリは大量の電力を蓄えており、短絡が発生するとその電力が瞬時に放出されます。この結果、非常に高い電流が瞬間的に流れることになります。大電流は発熱や火災の原因となるだけでなく、電気機器や回路の損傷を引き起こす可能性もあります。短絡時の電流は、数千A~2万Aにものぼると想定され、電気回路や接続されている電装品を保護し、加熱や発火などを防ぐ保安部品(ヒューズなど)も含めシステムとして安全を確保する必要があります。保安部品によって安全が確実に確保できるまでの間、大電流に耐えうるだけの短絡性能がリレーに求められます。
G9EKは5000A 5ms以上の大電流に耐えきる、非常に高い短絡性能を有しています。これは、10~20kWhクラスのリチウムイオンバッテリを使用するアプリケーションの異常時の短絡(ショート)に耐えるレベルです。
短絡時の電流例
接点面に発生する電磁反発力
短絡電流は短時間(~1ms)に数千Aまで急峻な立上りで流れます。大きな電流が流れると、通電部の周囲に強力な磁界が発生し、電流が磁界から受ける力(ローレンツ力)が接点が離れる方向に働きます。この現象を「電磁反発」と呼びます。大きな電流に耐えるには、発生するローレンツ力よりもさらに強い力で接点を押し込む構造が必要となります。高容量のバッテリになるほど短絡電流も大きくなり、電磁反発力も大きくなるため、設計難易度も劇的に高くなっていきます。
従来の端子構造
コの字型に電流が流れることで、磁界が中央に集中して発生する。結果、ローレンツ力(電流が磁界から受ける力)が下向きにかかり、接点接触部が離れやすくなる。
G9EKの端子構造
電流がほぼ横方向に流れる構造設計により、磁界の発生方向も分散している。結果、接点周辺に発生する磁界が小さくなり、接点を引き離す方向に働くローレンツ力が小さくなる。
接点(可動板)に発生する電磁反発力の比較
モビリティ分野の代表例である電気自動車や電動バイクなどのモビリティは、加速時や急速充電時に大量の電力(大電流)を必要とします。また多くのバッテリ駆動機器にはモータが搭載されており、モータがより強力に回転するためには、大電流が必要となります。そのため、電気自動車や電動バイクに安全遮断用途で内蔵されているリレーにも高容量(大電流)が求められています。
兼ね備えたG9EKを試してみませんか?
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兼ね備えたG9EKを試してみませんか?
100Gの衝撃はどのくらい?
一般車両の衝突は60Gクラス
※イメージです。
G9EKは100Gの耐衝撃性能
F1カーが衝突するレベルの衝撃でも耐える!
※イメージです。
G9EKがON/OFF時の衝撃性能は?
G9EKが ON時の耐衝撃性能
G9EKは、上下左右どの方向からの振動・衝撃であっても100Gの衝撃力まで対応することが可能です。100GはF1が衝突するレベルの衝撃です。
G9EKが OFF時の耐衝撃性能
従来のリレーヒンジ形
ヒンジ形は接点可動部を線で支えている状態。バネの力で横方向に押し付けているだけの構造になるので、規定以上の衝撃で動く。
G9EKの採用構造プランジャ形
プランジャ形は、T字に設計された接点可動部により、接点の可動方向である上下以外の、左右・手前・奥からの振動の影響はほぼ受けない。それに加えて、ソレノイド採用したコイルにより、磁力を強めることで、接点間の接圧を強め更に振動に強い構造を作り出している。
ガスの力に頼り切っていた、
今までのノウハウだけでは実現できない500A遮断の壁
高容量リレーに精通した技術者を集め、原理試作の制作・試験を日々繰り返し、アークの挙動データを地道に収集し、考察していきました。過去に、形G9EJというDC400V 25Aのガスなしリレーを開発した経験はあるものの、
高容量&小型サイズで気中開閉(ガスレス)を実現しようとすると…
アークの再点弧現象については、空間の活用が有効であることは過去の経験則でわかってはいるものの、正確にどのくらいの空間が必要なのかのデータは全くない状態でした。今まではアークの遮断性はガスの力に頼ってしまっていたので、アークを引き延ばすための緻密な空間設計を検討する必要はありませんでした。しかし重要なのは、「サイズが従来のガス封止型のリレーと同じであること」です。高容量を実現できたとしても、サイズが大きくなってしまうのであれば、お客様にメリットは感じていただけません。
ファインメカ開発1部 高容量RY開発グループ
ファインメカ開発1部 高容量RY開発グループ
オムロンが生み出したDCパワーリレーの新構造
モビリティ開発部 商品技術グループ
モビリティ開発部 商品技術グループ
オムロン独自のCAE解析技術を活用し、アークが遮断時にどう動くのかをシミュレーションで確認し、小さい空間を最大限に活用してアークを引き延ばす距離を稼ぐような構造上の工夫を設計に組み込みました。加えて、アークのシミュレーションで想定した動きを実際にしているかどうかを、電磁石を用いて実際に確認し、必要な空間距離や、アークの合流/再点弧を防ぐような細部の構造設計を調整していきました。接点部に関しても、形状の工夫により、大電流遮断に優位になるようになっています。
このような、遮断に優位な構造が、G9EKの設計には、多数組み込まれています。
理想の設計 vs 量産できる構造
設計上の理想形状はあるものの、複雑な形状や厳しい公差設定を量産で再現することは困難です。生産ラインで組み立て、品質を担保しつつ量産を実現させることのできる部品形状へとすり合わせが必要でした。ガスを必要としないことで、ガスを封入するために必要な大型の設備は必要なくなり、製品自体の構造もシンプルになっている一方で、ほぼすべての構造が新しい部品形状のため、今までの生産工法も通用しません。製品を生産ラインで組み上げても、試作段階で分からなかった組み立て時の不具合が起きたり、品質を担保する各スペックの工程能力を満足させることができないなど、品質が安定しなかったので様々な調整が必要でした。遮断や短絡性能など、製品の要となる部分は最新の注意を払いながら設計を重ねていたのでおおむね予想通りの結果が得られるのですが、想定もしていないようなところからエラーが起こるんです。1つエラーをつぶしても、別のところからエラーがまた出てくる。一発で改善できず、もぐらたたき状態でした。しかし、技術検討段階でかなりの時間を要したため、ここで時間をかけるわけにはいきませんでした。とにかく、限られた時間の中で、トライ&エラーをガンガンまわしていきました。
電子部品でも社会課題に挑戦できる
商品化までの道のりは、決してスムーズでは無く、幾度となく壁にぶち当たり、私自身、心が折れそうになることが何度もありました。しかし、携わったメンバ全員で1枚ずつ壁を打ち破り、形G9EKを世に出す事が出来ました。
今後、カーボンニュートラルの実現に対する取り組みは世界で加速していくと考えます。形G9EKは、従来の大電流遮断構造において必要不可欠だった特殊部材と特殊工程を完全に排除した事で、電動モビリティ、電力供給装置、蓄電池設備などのさまざまなアプリケーションに対して、安定した供給を可能にしました。また、生産過程で発生する消費電力を抑えたクリーンな商品でもあります。
カーボンニュートラルの世界を創るために、私たちの想いが詰まった形G9EKを世界中に届けていければと思ってます。
現在、リレーに対する要求スペックは上がってきており、それに対応するため、私たちは、より高電流・高電圧に対DCパワーリレーの開発を進めています。難易度が高いプロジェクトになりますが、開発上流からあらゆる分野のメンバーを巻き込んだ、コンカレント開発をおこなう事で、組織全体で新商品を作り上げていく取り組みを実施しています。形G9EKで得た技術と経験を活かしながら、新たな価値の創造をスピーディに実施することで、社会のニーズに柔軟に対応していきたいと思ってます。今後もオムロンのDCパワーリレーにご期待ください。
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