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設計編 II:受光素子側の設計

フォト・マイクロセンサ (フォトインタラプタ)をご使用いただくうえで具体的にどう設計するかを説明します。
受光素子側の設計は、フォトトランジスタとフォト・ICのおおきく2種類に分類されます。

フォトトランジスタの場合

受光素子の特性

受光素子として重要な特性は、光が入らないときと光が入るときにどのようになるかということです。

図7は、LEDに所定の順電流 IFを流したとき、フォトトランジスタにどのような電流が流れるかを測定する回路の例です。ここでは、理想的環境条件として周囲が暗黒 (0lx) であるものとして説明します。

図7. 測定回路

測定回路

最初に順電流 IFが流れない (=入光しない) 状態では、l電流計の表示は数nA (nA=10-9A) となります。これはフォトトランジスタ自体のもれ電流で、暗電流 IDと称されています。この状態は不透過物体でLEDからの光をしゃ光しても同じ結果となります。

つぎに、順電流IFを流した状態をみますと、l電流計の表示は数mA (mA=10-3A) となり、この電流は光電流 ILと称されます。 この2つの電流を比較すると下のようになり、106倍もの差があることがわかります。 したがってこの電流の (レベル) 差を利用してやれば、いろいろな物体の検出を行うことが可能となります。

  • フォトトランジスタへの光をさえぎった状態 … 暗電流 ID: 10-9A
  • フォトトランジスタに光を当てた状態 … 光電流 IL: 10-3A

なお、実使用においては周囲が暗黒ということは少なく、周囲光が存在するため、暗電流 IDプラスアルファの電流がしゃ光時に流れます。

つぎに反射形フォト・マイクロセンサの場合は、反射物体がないときに暗電流が流れます。
また構造上、暗電流 ID以外にLEDの光がフォト・マイクロセンサ内部でわずかながら反射するため、暗電流プラス内部反射電流が流れます(この電流を漏れ電流ILEAKと称しています)。
この漏れ電流ILEAKはIDがnAであるのに対し、数百nAとなっています。

その他に留意することとして、暗電流 IDや光電流 ILの温度依存性があります。

まず暗電流 IDの温度依存性については、とくに高温時ではその依存性が大きくなるので注意することが必要です。

図8形EE-SX1081の暗電流 IDの温度依存性を示します。

図8. 暗電流の温度依存性(代表例)
形EE-SX1081
暗電流の温度依存性 (代表例)

つぎに光電流 ILについては、温度依存性は受光素子としてとらえると、温度上昇にともない光電流 ILは増えていく傾向となります。フォト・マイクロセンサ(フォトインタラプタ)の出力素子としてとらえると、温度変化にともない、LED発光出力とフォトトランジスタ光電流には図9のような依存性があるので、フォト・マイクロセンサの光電流 ILとしては相殺され比較的少ない出力変化 (依存性) となります。

図10形EE-SX1081の光電流 ILの温度依存性を示します。

なお、依存性の傾向 (右上がりのカーブ、左上がりのカーブ、山形のカーブ…) は不定ですので、カタログに記載されているものは代表例として考えてください。依存性の傾向が不定ということは、温度補償や温度補正を行うことが難しいことを意味します。

図9. 発光・受光素子出力の温度依存性
(代表例)

発光・受光素子出力の温度依存性(代表例)

図10. 光電流の温度依存性(代表例)
形EE-SX1081

光電流の温度依存性(代表例)

各種特性の変化について

ここでは設計にあたって何をポイントにするかを説明します。
なお、ここでは最悪値設計〔Worst-case design〕という手法をとり入れて説明します。

最悪値設計とは、フォト・マイクロセンサ (フォトインタラプタ)の各種特性が、機能上悪い (最悪の) 方にかたよった場合でも、正常に動作するように設計する手法です。フォト・マイクロセンサでは光電流 ILが最少、暗電流 IDなどの漏れ電流が最大となったときを想定することにより最悪値設計を行います。つまり物体検出時の電流と非検出時の電流の比が最小になる状態を想定することになります。

光電流 ILと暗電流 IDの最悪値は、カタログなどの規格 (電気的特性) をみることによって把握することができます (いずれも最小値あるいは最大値が規格化されています) 。
表1はオムロンフォト・マイクロセンサ数種の光電流 ILと暗電流 IDの限界規格値を示しています。

表1. 暗電流 ID光電流 ILの規格値

形式 ID(nA)
規格上限値
IL(mA)
規格下限値
条件
形EE-SG3 200 2 IF=15mA
形EE-SX1081,
形EE-SX1035,
形EE-SX1096(-W11)
など
200 0.5 IF=20mA
形EE-SY110
形EE-SF5(-B)
など
200 0.2 IF=20mA∗1
条件 VCE=10V, 0lx
Ta=25°C
VCE=10V
Ta=25°C
-

実際の設計においては、表1の限界の規格値をもとに展開していきますが、これだけでは最悪値設計とはなりません。

暗電流 IDの場合

  • 温度上昇
  • 電源電圧
  • 周囲 (外乱) 光
  • 内部反射による漏れ電流 (反射形の場合)

などの要素による「加算分」を考慮しなければならず

光電流 ILの場合

  • 温度変化
  • 経年変化 (LEDの発光出力低下)

などの要素による「減算分」を設計の中に組入れなければならないためです。

表2に暗電流 IDの「加算分」、光電流 ILの「減算分」を掲げます。

表2. 各種要素における受光素子の依存性

要素 フォトトランジスタ
暗電流 ID 周囲 (外乱) 光 実験にて確認
温度 (上昇) +25°Cごとに約10倍
電源電圧 図11参照
光電流 IL 温度 (変化) +10~−20%程度
経年変化
(2~5万時間)
温度変化とあわせ、
初期の1/2程度と考える
図11. 暗電流の印加電圧依存性(代表例)
形EE-SX1081
光電流の温度依存性 (代表例)

つぎに表1表2の依存性を加味して置き換えてみます (ここでの条件は最高周囲温度をTa=60°C、VCC=10V使用時間5万時間程度としておきます)。
たとえば形EE-SX1081についてみますと、暗電流 IDの最大値は、周囲温度Ta=25°Cで200nAですので、周囲温度Ta=60°Cでは約4μAとなります。
光電流 ILの最小値は、周囲温度Ta=25°Cで0.5mA MIN.ですので5万時間後には、温度依存性も含め0.25mA程度と考えることになります。

各種フォト・マイクロセンサの最悪推定値を表3に掲げましたので、ご設計の際にご利用ください。またこれ以外に、諸特性のバラツキについても考慮しなければならないことがありますが、こちらについてはつど説明いたします。
なお、反射形フォト・マイクロセンサの光電流 ILの値については、当社標準測定条件における値であり、検出する物体や距離によって大きく変わりますので、ご注意ください。

表3. 各種フォト・マイクロセンサの最悪推定値

形式 ID(μA)
最悪推定値
IL(mA)
最悪推定値
条件
形EE-SG3 4 1 IF=15mA
形EE-SX1081,
形EE-SX1035
形EE-SX1096(-W11)
など
4 0.25 IF=20mA
形EE-SY110
形EE-SF5(-B)
など
4 0.1 IF=20mA∗1
条件 VCE=10V, 0lx
Ta=60°C
VCE=10V, 5~10万時間
Ta=Topr
-
  • ∗1: 当社標準測定条件における値

基本回路の設計法

前項までの説明で、設計の際に重要な特性が何であるか、また、それらの特性がどのような要素のもとで、どのように変化するか、変化した特性を、設計の際どのように生かすかが、ご理解いただけたかと思います。

本項では具体的な設計法について述べるとともに設計に際しての要点を説明します。
まず前項では、フォトトランジスタにLEDからの光が入光されたときとしゃ光されたときにフォトトランジスタはどうなるかを説明しましたが、第1のポイントは、このフォトトランジスタに流れる電流 (ILやIDなど) を、出力としてどのように処理するかです。

図12にフォト・マイクロセンサの基本回路を掲げました。
図において、フォトトランジスタ側抵抗RLには、フォトトランジスタに入光されたとき光電流 ILが流れ、しゃ光されたときには暗電流 ID (プラスアルファ) の電流が流れます。

図12. 基本回路

基本回路

図13. 出力のとり方 (具体例)

出力のとり方

したがって、抵抗RL両端の電圧 (降下) を出力としてとらえると、入光時の出力電圧は IL×RL、しゃ光時の出力電圧は ID (+α) ×RL となります。(なお、以後の説明で述べるILやIDは、先に述べた最悪推定値を適用するようにしてください)

さて、出力として電圧の形でとり出すには単に抵抗RLをつなぐことによって可能となります。
一例をあげると、光電流 ILの最悪値が0.25mA、暗電流 IDプラスアルファの漏れ電流の最大値が0.01mAとし、出力電圧としてフォトトランジスタオンのとき4V以上、オフのとき1V以下としたいような場合を考えると、図13のように、負荷抵抗RLとして22kΩ程度とすればオンのとき5.5V (0.25mA×22kΩ) 、オフのとき0.22V (0.01mA×22kΩ) となります。
なお実使用においては、(先の計算は最悪値における計算結果です) 、オンのときの出力電圧はそれ以上の電圧、オフのときの出力電圧はそれ以下の電圧となります。

このようにして得られる出力電圧を、増幅してICの入力としたりしてフォト・マイクロセンサ (フォトインタラプタ) を活用していくことになります。

[ フォトトランジスタのエミッタを接地する場合 ]

フォト・マイクロセンサをスイッチとしてご使用の場合、光電流 IL−コレクタ・エミッタ間電圧VCE特性の飽和領域で使用できるように受光側の負荷抵抗RLを設定する必要があります。

また、図14の回路は次の式で表すことができます。

図14 フォトトランジスタ接地の場合

図14 フォトトランジスタ接地の場合

IF=(VCC−VF) / RF … (A)

VCC=IC×RL+VCE … (B)

例えば、R1=220Ωにてご使用になる場合を具体的に計算すると以下のようになります。

1. LED順電流 IFを求める

(A)式より、IF= (VCC−VF) / RF= (5−1.2) / 220=17mAになります。

2. 光電流下限値を求める

製品規格より、IL (MIN) =0.5mA (IF=20mAの時) です。この時のIL−VCE特性の下限は図15に示すようになります。回路上、フォトトランジスタ(PTr) を安定的にONさせるためにはPTrの飽和領域で使用する必要があります。
IF=17mAにおけるIL下限値はIL−IF特性が正比例関係であることより計算にて求めると
IL(MIN) =0.5×17/20=0.425mA (IF=17mAの時) となります。

図15. 光電流 IL - コレクタ・エミッタ
間電圧VCE特性

光电流 IL - 集电极/反射极间电压VCE
  1. RLが小さすぎるとIL−VCE曲線と負荷線の交点より、VCE=大となるため、上記回路ではVOUT=VCE=大となり、PTr : ON時にVOUTが十分下がらない。
  2. RLをIL(MIN) の50%を見込んで設定するとIL−VCE特性の飽和領域でONし、安定したスイッチングができる。

3. 設計マージンを考慮する

フォト・マイクロセンサ (フォトインタラプタ) は一般的に経時劣化、温度特性による変化があっても動作する回路を設計するため、ILは初期値の50%を見込んで設計するので、IL(MIN)=0.425mA (IF=17mAの時) の50%である約0.212mAを回路電流 ICとして考えます。

4. RLを求める

(B) 式より、RL=(VCC−VCE(sat)) / IC≒VCC / IC=5 / 0.212=23.6kΩ
よって、RL=22kΩ程度となります。

応用回路の設計法

では次に、図16に示す応用回路について、その設計法を説明します。

図16において、LEDの光がフォトトランジスタに入光すると光電流 ILが流れ、この光電流 ILはR1→R2の方向に流れます。そしてR2の両端の電圧が、トランジスタQ1のベース・エミッタ間のバイアス電圧 (0.6~0.9V位) を超えるようになると、光電流 ILはR2の方向以外に、Q1のベース・エミッタの方へ分流して流れ、これがQ1のベース電流となり、Q1がオンすることになります。
Q1がオンに移行すると、R3を通しコレクタ電流が流れ、Q1のコレクタ電位は下がり、ロジックレベルでいう「L(LOW)」レベルとなります。

つぎにしゃ光されたときは、暗電流 IDプラスアルファの漏れ電流が流れますが、この場合は、 (ID+α) ×R2の電位がQ1のベース・エミッタ間のベース・エミッタ間バイアス電圧まで達しませんので、Q1にはベース電流が流れず、Q1はオフとなり、Q1出力は「H(HIGH)」レベルとなります。

図16. 応用回路

応用回路

図17. 等価回路

等価回路

なお、ここでR1はフォトトランジスタがオンしたとき、フォトトランジスタがみかけ上Q1のベース・エミッタ間 (ダイオードと等価) で短絡され (図17) 、フォト・マイクロセンサの光電流 ILが大きいとフォト・マイクロセンサに過大なコレクタ損失PCを生じますので、これを抑えるために入れてあります。

図16でのポイントは、

  • IL×R2 の電圧がベース・エミッタ間のバイアス電圧を十分上まわるようにすること。
  • (ID+α)×R2 の電圧がベース・エミッタ間のバイアス電圧を十分下まわるようにすること。

であり、これらの共通項であるR2をいかに設定するかが決め手となります。

具体例として、フォト・マイクロセンサに形EE-SX1081を使用し、電源電圧VCC=5Vで汎用ロジックICを駆動する場合をとりあげ、ポイントとなるR2とR1について設計法を説明します (図18) 。

図18 . 応用回路例
Equivalent Circuit

[ R2の算出 ]

R2の値は、トランジスタQ1がオンとなるベース・エミッタ間のバイアス電圧VBE(ON) が印加されるように選定するので、(式1)(式2)を使用することになります。

(式2) でVBE(ON) は、一般的な小信号トランジスタの場合、約0.8V、IL表3の最悪特性値0.25mA、IBは概ね20μA位となります。
従って、今回の例では(式3) となります。

式1, 2, 3

なお、R2は(式2) の右辺より大きいので、実際は(式2) で求めた値の2~3倍は大きくしてください(今回はR2=10kΩとします)

[ R2の検証 ]

前項では、Q1をオンにさせるということを前提にR2を算出しました。ここでは、先に求めたR2でQ1をオフにできるかどうかを確認し、R2の妥当性を検証します。

Q1をオフさせるためには、(式4)となります。
この (式4) に以下に示す数字をあてはめてみて、(式4) の条件 (式) をみたすか確認します。
なお(式4) にはαが入っていますので、ここでは10μAと仮定し、暗電流 ID表3の4μAを適用すると、(式5) となります。

式4, 5

(式5) をもって、(式3) を十分に満足することがわかり、R2の検証ができたことになります。
この検証で問題がなければ設計はほぼ完了です。

[ R1の決定 ]

R1は先述のように、フォト・マイクロセンサ (フォトインタラプタ) の光電流 ILが大きいものが組込まれると、みかけ上Q1のベース・エミッタ間で短絡され (図17)、過大な電流が流れるため、これを抑えフォトトランジスタのコレクタ損失PCを下げるために挿入します。
R1を決定するには、「フォトトランジスタのコレクタ損失PCはいくらまで許容できるか。 (絶対最大定格の面から) 」によりますので、カタログに示されるコレクタ損失の温度定格図より求めることになり、ここでは途中の計算 (設計法) と説明を省略しますが、数百Ω (ここでは200Ω) となります。

以上で設計は完了です。
フォト・マイクロセンサの受光素子側の設計のポイントは、とにかくトランジスタを1石使用してフォト・マイクロセンサの出力を増幅することです。回路の信頼性向上および動作の安定性の点でも、フォト・マイクロセンサだけの出力を利用する方法に比べ、大きな性能差があらわれます。
図18の回路は図12の基本回路に比べ、フォト・マイクロセンサの、みかけ上のインピーダンス (負荷抵抗) がR1という比較的小さな値により決定されるので、応答性などの点でも比較にならないほどの性能差を発揮します。

なお、フォト・ICという増幅回路を内蔵している受光素子もあり、設計が簡単で使いやすいため、このフォト・IC出力形も多く使われる傾向にあります。

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