test 2022/02/18まるやま
設計編 II : 受光素子側の設計
フォト・マイクロセンサをご使用いただくうえで具体的にどう設計するか説明します。
受光素子側の設計は、フォトトランジスタとフォトICのおおきく2種類に分類されます。
フォトトランジスタの場合
受光素子として重要な特性は、光が入らないときと光が入るときにどのようになるかということです。
図1は、LEDに所定の順電流 IFを流したとき、フォト・トランジスタにどのような電流が流れるかを測定する回路の例です。ここでは、理想的環境条件として周囲が暗黒 (0lx) であるものとして説明します。
最初に順電流 IFが流れない (=入光しない) 状態では、l電流計の表示は数nA (nA=10-9A) となります。これはフォト・トランジスタ自体のもれ電流で、暗電流 IDと称されています。この状態は不透過物体でLEDからの光をしゃ光しても同じ結果となります。
つぎに、順電流 IFを流した状態をみますと、l電流計の表示は数mA (mA=10-3A) となり、この電流は光電流 ILと称されます。 この2つの電流を比較すると右のようになり、106倍もの差があることがわかります。
したがってこの電流の (レベル) 差を利用してやれば、いろいろな物体の検出を行うことが可能となります。
-
フォト・トランジスタへの光をさえぎった状態 … 暗電流 ID: 10-9A
-
フォト・トランジスタに光を当てた状態 … 光電流 IL: 10-3A
なお、実使用においては周囲が暗黒ということは少なく、周囲光が存在しますので、暗電流 IDプラスアルファの電流がしゃ光時に流れます。
つぎに反射形フォト・マイクロセンサの場合は、反射物体がないときに暗電流が流れます。
また構造上、暗電流 ID以外にLEDの光がフォト・マイクロセンサ内部でわずかながら反射しますので、暗電流プラス内部反射電流が流れます (この電流を漏れ電流 ILEAKと称しております)。
この漏れ電流 ILEAKはIDがnAであるのに対し、数百nAとなっています。
その他にご留意いただきたいこととして、暗電流 IDや光電流 ILの温度依存性があります。
まず暗電流 IDの温度依存性についてですが、とくに高温時ではその依存性が大きくなりますので注意することが必要です。
図2に形EE-SX1018の暗電流 IDの温度依存性を示します。
つぎに光電流 ILについてですが、温度依存性は受光素子としてとらえますと、温度上昇にともない光電流 ILは増えていく傾向となります。フォト・マイクロセンサの出力素子としてとらえますと、温度変化にともない、LED発光出力とフォト・トランジスタ光電流には図3のような依存性がありますので、フォト・マイクロセンサの光電流 ILとしては相殺され比較的少ない出力変化 (依存性) となります。
図4に形EE-SX1018の光電流 ILの温度依存性を示します。
なお、依存性の傾向 (右上がりのカーブ、左上がりのカーブ、山形のカーブ…) は不定ですので、カタログに記載されているものは代表例として考えてください。依存性の傾向が不定ということは、温度補償や温度補正を行うことが難しいことを意味します。
図3. 発光・受光素子出力の温度依存性(代表例)
図4. 光電流の温度依存性(代表例)[形EE-SX1018]
各種特性の変化について
ここでは設計にあたって何をポイントにするかを説明いたします。
なお、ここでは最悪値設計〔Worst-case design〕という手法をとり入れて説明します。
最悪値設計とは、フォト・マイクロセンサの各種特性が、機能上悪い (最悪の) 方にかたよった場合でも、正常に動作するように設計する手法です。フォト・マイクロセンサでは光電流 ILが最少、暗電流 IDなどの漏れ電流が最大となったときを想定することにより最悪値設計を行います。つまり物体検出時の電流と非検出時の電流の比が最小になる状態を想定することになります。
光電流 ILと暗電流 IDの最悪値は、カタログなどの規格 (電気的特性) をみることによって把握することができます (いずれも最小値あるいは最大値が規格化されています) 。
表1はオムロンフォト・マイクロセンサ数種の光電流 ILと暗電流 IDの限界規格値を示しています。
表1. 暗電流 ID光電流 ILの規格値
形式 | ID(nA) 規格上限値 | IL(mA) 規格下限値 | 条件 |
---|---|---|---|
形EE-SG3 | 200 | 2 | IF=15mA |
形EE-SX1018, 1055 形EE-SX1041, 1042 形EE-SX1070, 1071 形EE-SX198, 199 など |
200 | 0.5 | IF=20mA |
形EE-SB5 形EE-SF5(-B) 形EE-SY110 |
200 | 0.2 | IF=20mA∗1 |
条件 | VCE=10V, 0lx Ta=25°C |
VCE=10V Ta=25°C |
- |
実際の設計においては、表1の限界の規格値をもとに展開していきますが、これだけでは最悪値設計とはなりません。
暗電流 IDの場合
- 周囲 (外乱) 光
- 温度上昇
- 電源電圧
- 反射形の場合、内部反射による漏れ電流
などの要素による「加算分」を考慮しなければならず
表2. 各種要素における受光素子の依存性
要素 | フォト・トランジスタ | |
---|---|---|
暗電流 ID | 周囲 (外乱) 光 | 実験にて確認 |
温度 (上昇) | +25°Cごとに約10倍 | |
電源電圧 | 図5参照 | |
光電流 IL | 温度 (変化) | +10~−20%程度 |
経年変化 (2~5万時間) |
温度変化とあわせ、 初期の1/2程度と考える |
つぎに下限について考えます。順電流IF=0では発光しませんので、いくらかは流さなければなりません。詳細な説明は割愛しますが、赤外LEDを使用したものは5mA以上、赤色LEDを使用したものは2mA以上としてください (あまり低いと安定した発光出力が得られないためです)。
では最適値はどれ位かというと、オムロンのフォト・マイクロセンサではつぎのようにお考えいただくと便利です。まず、カタログの電気的特性の中の光電流ILという項目をご覧ください。
この光電流ILの詳細は後述しますが、LEDに順電流IFをどれだけ流したら、どれだけの出力電流が得られるかという性能を表わすもので、フォト・マイクロセンサにとって最も重要な特性の1つです。
この光電流ILに記載されている順電流IFの条件 (たとえば形EE-SX1018ですとIF=20mA) にある値を適切なレベルの電流としていただければ使いやすい出力が得られ、出力処理 (回路設計) も容易となります。
光電流 ILの場合
- 温度変化
- 経年変化
などの要素による「減算分」を設計の中に組入れなければならないためです。
表2に暗電流 IDの「加算分」、光電流 ILの「減算分」を掲げます。
つぎに表1を表2の依存性を加味して置き換えてみます (ここでの条件は最高周囲温度をTa=60°C、VCC=10V使用時間5万時間程度としておきます)。
たとえば形EE-SX1018についてみますと、暗電流 IDの最大値は、周囲温度Ta=25°Cで200nAですので、周囲温度Ta=60°Cでは約4μAとなります。
光電流 ILの最小値は、周囲温度Ta=25°Cで0.5mA MIN.ですので5万時間後には、温度依存性も含め0.25mA程度と考えることになります。
図5. 暗電流の印加電圧依存性(代表例)[形EE-SX1018]
各種フォト・マイクロセンサの最悪推定値を表3に掲げましたので、ご設計の際にご利用ください。
またこれ以外に、諸特性のバラツキについても考慮しなければならないことがありますが、こちらについてはつど説明いたします。
なお、反射形フォト・マイクロセンサの光電流 ILの値については、当社標準測定条件における値であり、検出する物体や距離によって大きく変わりますので、ご注意ください。
表3. 各種フォト・マイクロセンサの最悪推定値
形式 | ID(μA) 最悪推定値 | IL(mA) 最悪推定値 | 条件 |
---|---|---|---|
形EE-SG3 | 4 | 1 | IF=15mA |
形EE-SX1018, 1055 形EE-SX1041, 1042 形EE-SX1070, 1071 形EE-SX198, 199 など |
4 | 0.25 | IF=20mA |
形EE-SB5 形EE-SF5(-B) 形EE-SY110 など |
4 | 0.1 | IF=20mA∗1 |
条件 | VCE=10V, 0lx Ta=60°C |
VCE=10V, 5~10万時間 Ta=Topr |
- |
- ∗1: 当社標準測定条件における値
基本回路の設計法
前項までの説明で、設計の際に重要な特性が何であるか、また、それらの特性がどのような要素のもとで、どのように変化するか、変化した特性を、設計の際どのように生かすかが、ご理解いただけたかと思います。
本項では具体的な設計法について述べるとともに設計に際しての要点を説明いたします。
まず前項では、フォト・トランジスタにLEDからの光が入光されたときとしゃ光されたときにフォト・トランジスタはどうなるかを説明しましたが、第1のポイントは、このフォト・トランジスタに流れる電流 (ILやIDなど) を、出力としてどのように処理するかです。
図6にフォト・マイクロセンサの基本回路を掲げました。
図において、フォト・トランジスタ側に接続される抵抗RLには、フォト・トランジスタに入光されたとき光電流 ILが流れ、しゃ光されたときには暗電流 ID (プラスアルファ) の電流が流れます。
図6. 基本回路
したがって、抵抗RL両端の電圧(降下)を出力としてとらえますと、入光時の出力電圧は IL×RL、しゃ光時の出力電圧は ID (+α) ×RL となります。(なお、以後の説明で述べるILやIDは、先に述べた最悪推定値を適用するようにしてください)
さて、出力として電圧の形でとり出すには単に抵抗RLをつなぐことによって可能となります。
一例をあげますと、光電流 ILの最悪値が0.25mA、暗電流 IDプラスアルファの漏れ電流の最大値が0.01mAとし、出力電圧としてフォト・トランジスタオンのとき4V以上、オフのとき1V以下としたいような場合を考えますと、図7のように、負荷抵抗RLとして22kΩ程度とすればオンのとき5.5V (0.25mA×22kΩ)、オフのとき0.22V (0.01mA×22kΩ)となります。
なお実使用においては、(先の計算は最悪値における計算結果ですので)、オンのときの出力電圧はそれ以上の電圧、オフのときの出力電圧はそれ以下の電圧となります。
このようにして得られる出力電圧を、増幅してICの入力としたりしてフォト・マイクロセンサを活用していくことになります。
図7. 出力のとり方 (具体例)
[ (例) 形EE−S□□□を下図回路で使用の場合 ]
フォトマイクロセンサをスイッチとしてご使用の場合、光電流 IL−コレクタ・エミッタ間電圧VCE特性の飽和領域で使用できるように受光側の負荷抵抗RLを設定する必要があります。
また、図8の回路は次の式で表すことができます。
IF=(VCC−VF) / R1 … (A)
VCC=IC×RL+VCE … (B)
図8
例えば、R1=220Ωにてご使用になる場合を具体的に計算しますと以下のようになります。
LED順電流 IFを求める
(A)式より、IF= (VCC−VF) / R1= (5−1.2) / 220=17mAになります。
光電流下限値を求める
製品規格より、IL (MIN) =0.5mA (IF=20mAの時) です。
この時のIL−VCE特性の下限は図9に示すようになります。
回路上、フォトトランジスタ(PTr)を安定的にONさせるためには
PTrの飽和領域で使用する必要があります。
IF=17mAにおけるIL下限値はIL−IF特性が正比例関係であることより計算にて求めると
IL(MIN)=0.5×17/20=0.425mA (IF=17mAの時) となります。
設計マージンを考慮する
フォトマイクロセンサは一般的に経時劣化、温度特性による変化があっても動作する回路を設計するため、ILは初期値の50%を見込んで設計しますので、IL(MIN)=0.425mA (IF=17mAの時) の50%である約0.212mAを回路電流 ICとして考えます。
RLを求める
(B)式より、RL=(VCC−VCE(sat)) / IC≒VCC / IC=5 / 0.212=23.6kΩ
よって、RL=22kΩ程度となります。
図9. 光電流 IL - コレクタ・エミッタ間電圧VCE特性
- RLが小さすぎるとIL−VCE曲線と負荷線の交点より、VCE=大となるため、上記回路ではVOUT=VCE=大となり、PTr : ON時にVOUTが十分下がらない。
- RLをIL(MIN)の50%を見込んで設定するとIL−VCE特性の飽和領域でONし、安定したスイッチングができる。
応用回路の設計法
では次に、図10に示す応用回路について、その設計法を説明します。
図10おいて、LEDの光がフォト・トランジスタに入光すると光電流 ILが流れ、この光電流 ILはR1→R2の方向に流れます。そしてR2の両端の電圧が、トランジスタQ1のベース・エミッタ間のバイアス電圧 (0.6~0.9V位) を超えるようになると、光電流 ILはR2の方向以外に、Q1のベース・エミッタの方へ分流して流れ、これがQ1のベース電流となり、Q1がオンすることになります。
Q1がオンに移行すると、R3を通しコレクタ電流が流れ、Q1のコレクタ電位は下がり、ロジックレベルでいう「L(LOW)」レベルとなります。
つぎにしゃ光されたときは、暗電流 IDプラスアルファの漏れ電流が流れますが、この場合は、 (ID+α) ×R2の電位がQ1のベース・エミッタ間のベース・エミッタ間バイアス電圧まで達しませんので、Q1にはベース電流が流れず、Q1はオフとなり、Q1出力は「H(HIGH)」レベルとなります。
応用回路の設計法
図10. 応用回路
図11. 等価回路
なお、ここでR1はフォト・マイクロセンサがオンしたとき、フォト・マイクロセンサがみかけ上Q1のベース・エミッタ間 (ダイオードと等価) で短絡され (図11)、フォト・マイクロセンサの光電流 ILが大きいとフォト・マイクロセンサに過大なコレクタ損失PCを生じますので、これを抑えるために入れてあります。
図10でのポイントは、
- IL×R2 の電圧がベース・エミッタ間のバイアス電圧を十分上まわるようにすること。
- (ID+α)×R2 の電圧がベース・エミッタ間のバイアス電圧を十分下まわるようにすること。
図12. 応用回路例
[ R2の検証 ]
前項では、Q1をオンにさせるということを前提にR2を算出しました。ここでは、先に求めたR2でQ1をオフにできるかどうかを確認し、R2の妥当性を検証します。
Q1をオフさせるためには、(式4)となります。
この(式4)に以下に示す数字をあてはめてみて、(式4)の条件(式)をみたすか確認します。
なお(式4)にはαが入っていますので、ここでは10μAと仮定し、暗電流 IDは表3の4μAを適用すると、(式5)となります。
(式5)をもって、(式3)を十分に満足することがわかり、R2の検証ができたことになります。
この検証で問題がなければ設計はほぼ完了です。
[ R1の決定 ]
R1は先にも述べましたように、フォト・マイクロセンサの光電流 ILが大きいものが組込まれますと、みかけ上Q1のベース・エミッタ間で短絡され (図11)、過大な電流が流れるため、これを抑えフォト・トランジスタのコレクタ損失PCを下げるために挿入します。
R1を決定するには、「フォト・トランジスタのコレクタ損失PCはいくらまで許容できるか。 (絶対最大定格の面から) 」によりますので、カタログに示されるコレクタ損失の温度定格図より求めることになり、ここでは途中の計算 (設計法) と説明を省略しますが、数百Ω (ここでは200Ω) となります。
以上で設計は完了です。
フォト・マイクロセンサの受光素子側の設計のポイントは、とにかくトランジスタを1石使用してフォト・マイクロセンサの出力を増幅してやることです。回路の信頼性向上および動作の安定性の点でも、フォト・マイクロセンサだけの出力を利用する方法に比べ、大きな性能差があらわれます。
図10の回路は図6の基本回路に比べ、フォト・マイクロセンサの、みかけ上のインピーダンス (負荷抵抗) がR1という比較的小さな値により決定されますので、応答性などの点でも比較にならないほどの性能差を発揮します。
なお、最近では、受光素子にフォト・ICという増幅回路を内蔵しているものもあり、設計が簡単で使いやすいため、フォト・IC出力形も多く使われる傾向にあります。
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